LOVERSION Music レビュー

第5回 入賞者ガラ・コンサート

音楽ジャーナリスト、池田卓夫 編

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※写真=左:和田七奈江 右:池田卓夫


LOVERSION TOKYO 
第5回入賞者ガラ・コンサート
(24/10/2013)
(池田卓夫=音楽ジャーナリスト)

今回は9月のオーディション合格者から2組3人が集い、前半と後半、それぞれハーフサイズのリサイタル競演となった。会場はオーディションと同じく、渋谷のタカギクラヴィア松濤サロン。両者の家族、友人も多くつめかけ、アットホームな雰囲気で満たされた。

冒頭に「ラヴァージョン」プロジェクト主宰のコンポーザー&ピアニスト、和田七奈江が自作の「11月の木漏れ日」「Love Ballade」の2曲を弾いた。「木漏れ日」はオーディション課題曲でもあり、4手連弾編曲も含め様々なピアニストの演奏で聴いてきたが、和田は作曲者の貫禄を示し、自身のCDとも違う全く新たなフィーリングを持ちこんでいた。

前半の本編は水澤亮子、中川寛子による1台ピアノ4手連弾。武蔵野音大の同窓で学生時代からの友人ながら、卒業後はソロの演奏やピアノ教師と活動を別々に行い、結婚して母となった。不惑の年代に至って子育ても一服した今、初めてデュオを組んだという。ブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」はじめ連弾の定番からブギウギ・ピアノの連弾兄弟「レ・フレール」作曲の「Happy Song」、ベートーヴェンの「交響曲第5番」に童謡の「どんぐりころころ」「鳩ぽっぽ」、シューベルトの「鱒」などを混ぜた「どんぐりの運命」など、ストーリー性を持たせた編曲ものまで、好奇心と挑戦意欲に満ちた選曲。結成して間もないとは思えないほど2人の息が合い、9月のオーディション時より、ぎこちなさが減った。ただメカニックに関して言えば、この世代までのピアノ教育を支配していた日本独特の「ハイ・フィンガー奏法」(卵をつかむような形で指を垂直方向に立てて弾く)の呪縛を脱せず、特にフォルテッシモの音が薄く、金属的に響くのは今後、改善すべき点かもしれない。

後半は声楽。米国に学んだソプラノの清川麻美が山本紗知のピアノでイタリア語のトスティ、フランス語のフォーレを3曲ずつ(しかも「秘密」「夢」にちなんだ作品で関連づけ)、得意の英語の歌を4曲披露した。決してグレイトヴォイスではないが、透き通って適度にウェット、気品も兼ね備えた音色は十分に個性的。サロンの親密な雰囲気になじんでいた。発音と発声の関係で言えば、やはりイタリア語、フランス語より英語の具合が最もいい。トークで「日本語の歌は?」と尋ねたら、「難しい」と即答された。声楽コンクールの審査員なども務めた経験に照らすと、それぞれの言語に適した発声、響かせ方、音色というものが確実にあり、うまくギアチェンジしないと喉にも負担がかかるし、客席が受けとめる表現も一本調子になってしまう。自身の音色を横方向にずうっと進んで行く「線」としたら、言語や時代様式ごとにテクニックをチェンジするのは響きのヴォリュームやヴィブラートの大小といった縦方向の「幅」と深く関係している。美声に繊細なコントロールが加わった時、清川の歌は一段と輝きを増すだろう。ピアノの山本は多彩な選曲にもかかわらず、長年の共演を通じ、危なげのないサポートのコツをよくわきまえていた。(以上)